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千聖大好きっ子の舞ちゃんに、千聖を悪の道から救い出そうとしてるなっきぃ、明らかに面白がってる愛理。 どんな恐怖映像が世に出回るかと思ったけど、撮影中はわきあいあいとソフトクリームを食べたり、牛や羊と戯れる平和な時間を過ごすことができた。 なっきぃが赤いマントを羽織って、「オーレィ!」と牛を挑発しながら私の方へ駆け寄ってきたことは忘れることにしよう。 すぐに予定の時間が過ぎて、ふたたびちさまいみかんなと合流するために、広場へ戻った。 3人はもうジャージから私服風の衣装に着替えて、楽しそうにまたバドミントンをやっていた。 「キュフフ、体力あるねー。」 「あ、お帰り!牧場どうだった?こっちはねー・・・」 舞美がなっきぃ舞ちゃんと話し初めて、愛理と栞菜が木陰に移動したから、私は必然的に千聖と2人になる。 「アスレチック、楽しかった?」 「ええ、とても。3人で競争もしたんですよ。舞美さんたら、私がロープを使って登っている時に、わざと揺らしていたずらするから怖かったわ。私も後で、栞菜と一緒にお返ししちゃいました。ウフフ」 ほわんほわんなお嬢様の千聖だけれど、やっぱり根っこはスポーツ大好きっこ。目を輝かせて喋る顔は、無邪気で可愛らしかった。 「今度、えりかさんも一緒にやりましょう。タイムトライアルが楽しかったわ。みなさんとプライベートで来ても面白そう。」 千聖、長い付き合いじゃない。いい加減私の運動神経をなめてもらっちゃ困る。 ロープのうんていを、腕の力だけで進む。 下に待ち受けるのはシザーなっきぃの大群。よーい、スタート! ウチだってやればできる!信じれば夢は叶うよ! と思ったけど二本目で落下する私。 落ちたよー、えりこちゃん、落ちたよーキュフフフフフ・・・・・ 「えりかさん?」 「はっ!・・・そ、そうだね機会があったらね。」 千聖は私の答えに満足して、話題を変えた。 「えりかさんたちは、何を?」 「えーと、ヤギ触って、牛触って、乳搾りしたんだよ、乳搾り。こう、ニキ゛ニキ゛ニキ゛って。」 私はわざと千聖の胸の前で、手をゆっくり閉じたり開いたりして挑発してみた。 恥ずかしがる姿を楽しもうと思ったのに、千聖はしばらくポカンと口を開けて、私の手つきに見入っていた。 だんだんと目がトロンとなって、唇がかすかに震え始める。 ちょ、そこまで興奮しなくても! 「ちちしぼり・・・」 「さーーーーーてと!!!次は後半の撮影だよ!!さあ行きますよ2人とも!」 千聖が妙に湿った声で呟いた瞬間、なっきぃが大音量で私たちを引き剥がしにかかった。 「なっきぃはりきりすぎー!そんなにおなかすいたの?とか言ってw」 「いいの!さあ、またグループ分けしよう!」 反復横とびみたいな動きで私と千聖をさえぎるなっきぃ。 舞美が千聖を連れて行ったのを確認すると、ゆっくり私に向き合った。 「あ、ちょ、ちょっとふざけすぎた・・・ってなっきぃ?何やってるの?」 なっきぃは私がさっき千聖にしたみたいに、私の胸の前で2,3回手をもにゅもにゅさせた。・・・と思ったら、 「ひええ!!」 いきなりその手を力強く閉じて、私のエアーおっぱいをぐしゃっと握りつぶした。 「・・・キュフフ、えりこちゃん。なっきぃはいつも、千聖のこと見守ってるんだからね。忘れないでね。」 なっきぃはそう言うと、いつもの可愛いなっきぃスマイルに戻して「じゃあ、早くみんなのとこ行こう!」と私の手を取った。 こ、怖い。ずっと怒られてるならともかく、こうメリハリを付けられると、恐怖感は倍増する。 今日の夜はさっき焦らしてしまった分、たっぷり楽しもうと思ったのに、 この分じゃ舞美あたりをけしかけて「えり!ちっさー!UNOやろう!」「トランプ!トランプ!」「ガールズトーク(笑)しようよ」とコテージを襲撃してくることは間違いなさそうだ。 ああー・・・私だって結構、楽しみにしてたのに。 さっきとは別の意味で落ち込んでるうちに、いつのまにかご飯係の班分けは終わっていた。 「えりかちゃん、私たちカレー作る係だよ。愛理も一緒。よかったー、どうしてもお姉ちゃんに話したいことがあったから。愛理になら、聞かれてもいいし。」 栞菜が嬉しそうに話しかけてくる。愛理は相変わらず、S入ったイタズラな目つきのままだった。 「あ、舞ちゃんと舞美ちゃんはご飯炊くんだって。千聖はなっきぃとアイスとバター作るんだよ。さっきえりかちゃんが絞った乳で、千聖がね。ケッケッケ」 ちょっとあーた!敵なの!味方なの!? 相変わらず読めない表情で、「野菜もらってくるねー」と、私たちを置いてどこかへ行ってしまった。 「私たちも調理器具とかもらってこようよ、えりかちゃん。」 「そうだね。あ・・・ねえ栞菜、話したいことって、なーに?気になるから、撮影始まる前に聞いときたいんだけど。」 私がそう切り出すと、栞菜は人差し指で「シーッ」のポーズを取って、急ぎ足で調理器具置き場まで移動した。 「どうしたの?相談事?」 周りを警戒しながら、栞菜はお鍋や包丁を選んでいく。 「私、決めたよお姉ちゃん。」 「うん?」 「ちっさーとえりかちゃんのこと、いろいろ悩んだんだけど。」 「え・・・?」 「でも、応援するから。」 応援、て。 ガバッと顔を上げた栞菜は、妙に明るい顔をしていた。 経験上、こういう表情の時の栞菜は要注意だ。 「ごめん栞菜、応援って、一体何を言って」 「私、2人の恋を応援するから!」 「・・・・・・は?」 私の手から落ちたお鍋のふたが、クワンクワンクワンと大きな音を立てた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「あっ・・・えぃかさっ・・・っ!!」 私の腕の中で、千聖の体がピクピクと跳ねた。 「あぁ・・・」 力を失っていく千聖を抱きしめて、私は穏やかな充実感を覚えていた。 「可愛い。気持ちかった?」 ほとんどアーチのない千聖の眉が困ったように下がっている。黒目が零れてしまいそうな茶色っぽい瞳には、今は何にも映っていなかった。お人形のように、ぐったりと私に体を預けている。 千聖は基本的に、私が千聖にするようには私の体に触れない。というか、触れさせないようにしている。 そこまでさせるのはちょっと抵抗があるし、千聖に惚けた顔を見られたくないのもある。あんまり昂ってしまったときは、あれです、セルフで。 今日は到底文字に出来ない通称“えりかスペシャル”もお見舞いしてしまって、お互いひどく興奮している。今の私もちょっとヤバイ感じだ。体の敏感なとこがむずむずしている。 「千聖、ちょっといい?トイレ行きたい。」 「とぃれ・・・・」 「あと、もう一回お風呂入る?風邪引いちゃうよ。」 「・・・おふろ・・?」 千聖はまったく頭が働いていないのか、ぼんやりした顔で私の言う言葉を模倣するだけだった。 「ほら、行こう。ダルいかもしれないけど、シーツも変えないと。」 お風呂から体も拭かずに、ついでに泡風呂の泡も落とさずにベッドにダイブしたから、髪も体もびちょびちょで気持ち悪い。 残念ながら舞美は降りてこなかったので、私は自前の筋力で、よっこいしょと千聖を抱えた。 「えりかさん・・・ごめんなさ・・・私・・・今日、変・・・・」 ベッドの上で座ったまま向かい合っていたら、千聖がギュッとしがみついてきた。 「どうしたの?大丈夫?」 「もっと・・・・・」 ハァ━━━ リl|*´∀`l|━━━━ン!! 「千聖ぉ~わかった。もう一回だけね!」 私は千聖を自分の体重で押し倒して組み敷いた。勢いで唇を合わせる。さっきの触れるだけのキスとは全然違う、柔らかくて濡れた感触が重なる。 口と口でキスしない。 押し倒さない。 上に乗っからない。 これで私は自己ルールを3つ破ってしまったことになる。あとは指突っ込んだらもう・・・いや、それはしない。ダメ、絶対! それにしても、この楽しそうな方へグングン流されていく意思の弱さを何とかしたい。と思いつつ、今は千聖との行為に溺れていたいという気持ちが圧勝してしまっている。 「ん、千聖・・・」 「ん・・・」 その時、私は背中の方に違和感を感じて、唇を離して振り返った。 シーツの上に、十本の指。だんだんとベッドを滑って、白い手首が見えてきた。 「キュフフフフフフフフフフフフフフ、来ちゃった。」 ゆっくりと、ベッドの下からなっきぃが這い上がってきた。 「ぎゃああああああ!!!!!」 「きゃああ!?」 私は鼓膜が破れるかと思うぐらい、すさまじい悲鳴をあげた。つられて千聖も怯えた声をあげる。 「さ、早貴さん・・・」 「うん、びっくりさせてごめんね、千聖。と、う・め・だ・さん♪」 泣いた。久しぶりのマジ号泣。恐怖と混乱で、あごがガクガクしている。 「ど、ど、ど、ど、ど、ど」 「どうしてここにって?鍵開いてたよ。無用心だなあ。」 「い、い、い、い、」 「いつから?2人がお風呂入ってる間に来たの。」 「そういうことです。はいはい、離れるんだコノヤロー」 お隣のベッドからは、舞ちゃんがのそのそと出てきた。そのまま、私と千聖の体の間に手を入れて、グワッと引き離されてしまった。 「おーい!えり、ちっさー、何かあったの!?すごい声したけど大丈夫!?」 ドアの外には全力リーダー。・・・終わった。 「みぃたん、来ちゃったんだ。千聖預かってもらおうと思ったのに。・・・みぃたんちょっと待ってて!」 「あ、じゃあ舞たちの部屋でいいよ。もう大丈夫だよ、千聖。服着て、ちょっと私の部屋に居て?愛理がいるし、栞菜も遊びに来てるよ。」 舞ちゃんはテキパキと千聖のバッグからあのネグリジェを取り出すと、呆然とする器用に手早く千聖にかぶせた。 「可愛い、似合ってる。」 「あ・・・・あの、あの・・・」 千聖は私との行為を見られてしまったことがショックだったのか、涙を浮かべたままろくに返事もできていない。 「大丈夫、千聖。全部なっきぃと舞ちゃん・・・とみぃたんにまかせて?キュフフ」 「じゃあ、舞ちょっと千聖を送ってくるよ。先始めないでねなっきぃ。」 始める!?何を? 「えりかさん・・・」 千聖が舌たらずに私を呼ぶ。 「千聖、いいから来て。」 玄関で舞ちゃんと入れ違いに舞美が入ってきた。 「お姉ちゃん、舞すぐ戻るからね。行くよ、千聖。」 「う、うん?・・・っていうか、何でえり裸なのー?どうしたの一体?何これ?うける!」 ああ、舞美のけがれをしらない大型犬みたいな瞳がまぶしい。 「キュフフ・・・えりこちゃーん・・・」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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部屋に通されて、ちっさーはすぐにデンモクを使って入力を始めた。 「ちっさー、そんなあわてないで。飲み物選んでからでいいよ。」 「んー・・・」 あら、集中モードに入ってしまったみたいだ。 とりあえず私はアイスティーを2つ頼んで、真剣にリストを作っているちっさーの横顔を観察することにした。 「ねー、何入れてるの?見せて見せて。」 「あっ待って!セットリストは、画面を見てからのお楽しみにしたいわ。まだ見ちゃダメよ。」 セットリストって、ちっさー。 まあでも、いたずらっ子みたいな顔で笑うちっさーは相変わらず可愛かったから、私は素直に言うことを聞いてあげることにした。 そうこうしているうちに店員さんが飲み物を持ってきて、ドアを閉めた途端に「さあ、始めましょう!」と珍しくちっさーが声を張った。 イントロが流れ出す。 予想通り、『スイーツ→→→ライブ』だった。 「この曲で、コンサート盛り上げましょうね!」 ちっさーはぴょこんと小さく跳ねると、私の手を取って勢いよく立ち上がる。 お尻をふりふり踊る姿に、私もテンションが上がってきた。 私が出だしを歌いはじめると、ちっさーはまるでお客さんが実際に目の前にいるかのように、満面の笑顔を振りまきだした。 そのしぐさが何だか可愛らしくてジーッと見つめていると、少し照れくさそうに笑ってから、自分のパートを歌うために口元にマイクを持っていった。 「前回 食べるペースを~」 少し色っぽくて、太めなちっさーの歌声。 何だか久し振りに聞いた気がする。 お嬢様になってからのちっさーは、それはそれは可愛らしい歌声に変わっていた。 愛理みたいに柔らかくて、なっきぃみたいに高く可愛らしい小鳥のような天使の歌声。 それはそれでいいという意見も多かったけれど(私もその一人だった)、ちっさーなりに思うところがあったみたいで、徐々に前の声質を取り戻す努力をしていたみたいだ。 今私の耳に入ってくるのは、まさに前のちっさーのそれだった。 たまらなく懐かしくて、だけどちょっとだけ名残惜しいような不思議な気持ちだった。 サビのほんの一部分、私たちの声は重なり合う。 ちっさーの声が強すぎるとか、私の主張が弱いとか指摘を受けがちな部分だったけれど、今日はすごく綺麗に絡まりあっている気がした。 ちっさーも同じように思ったみたいで、ちょっと目をパチクリさせながら笑いかけてきた。 言葉にしなくても、なんとなくわかりあえるのが嬉しかった。 小さい頃に絵本で読んだ、幸せを探して旅に出たけれど、本当に欲しかったものはすぐ近くにあったっていう話を思い出した。 私の求めていたものもとても単純で、だからこそ見失ってしまいがちなものだったのかもしれない。 「ちっさー、最高じゃない!?今歌っててすごく気持ちよかった!」 「ええ、私もそう思っていたわ。」 手を取り合ってはしゃいでいると、また次の曲のイントロが始まった。 「・・・・またかい!」 そう、ちっさーは、再びスイーツ・・・・を入れていた。 「だって、栞菜といっぱい練習したかったんですもの。・・・嫌かしら?」 うっ 仔犬のようなまなざしにはかなわない。 せっかくちっさーが考えてくれたオーダーなんだから、今日はとことん付き合うことにした。 「よーし、じゃあ張り切っていこう!」 ――でも、私はちっさーの張り切りを甘く見ていたのかもしれない。 「ち、ちっさー・・・・もう、いいんじゃない、かな。」 「え?どうして?」 このイントロを聞くのはあれから何度目だろう。もう確実に2ケタに突入している。 「まだまだ、練習して極めないと。んー、今で、折り返しぐらいかしら。」 「うへっ」 そうだった。ちっさーは尋常なく一途で、これと決めたらのめりこんでしまう傾向が昔からあった。 こういうところは、回転寿司でエビタルタルを頼みまくる某リーダーとよく似ている気がする。 私がストッパーにならないと、今日は突っ込みのなっきぃや舞ちゃんはいないんだった。 「もう十分な回数こなしてるって。違う曲にしようよぅ。他にもあるじゃない、私たちがいっぱい歌う曲。」 軽くしなだれかかってみると、ちっさーはちょっと考えてから「わかったわ」とうなずいてくれた。 「じゃあこの回が終わったら、違う曲も入れてみましょう。私が考えてもいいかしら?」 やった!ちょっとお姉ちゃんぽい説得ができた。 思わず舞い上がって、私はどうぞどうぞとまたもやちっさーに曲の入力をまかせた。 「おっ!僕らの輝き?いいねいいね!」 「えりかさんのパートは、わけっこしましょう?」 「うんっ」 そう、私はこの期に及んでまだ、お嬢様ちっさーの天然と一途さを侮っていたのだった。 この後連続数十回、この軽快なイントロを聞かされる羽目になるとは、私はまだしるよしもなかった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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自分の指についたマヨをペロリと舐めあげる。 「あ、本当これおいしいね。ウチも食べていい?」 「う、う・・・・」 千聖は首をガクガク縦に振ると、私のほうへお皿を押しやってきた。 「あ、あのさえりかちゃん千聖今日は家帰らなきゃなんないしえりかちゃんとホホホホテルに泊まるのは変だから家帰らないとだからあのそのホテルはキャンセルしてください今日は家に帰るから」 せっかくくっついてきてた体をソファの端まで避難させて、千聖はドアと私の顔を交互に見比べた。 「冗談だよー。ていうかスイートとか無理だから。こっちきて?」 「・・・」 「ちぃさぁとぉー」 千聖は警戒して動かないから、私のほうから引っつきに行ってみた。 「うわわ!」 「大丈夫だって、何にもしないから。ほら、水ギョーザも来たよ」 小皿に盛り付けて手渡すと、千聖は慌ててつるんと口の中に放り込んで「あふい!あふい!」とのた打ち回った。 その後、マンゴープリン2個をたいらげてから杏仁豆腐も追加オーダーし(やがっ)た千聖は、満足してお店を出た。 「ごちそうさま!すっごいおいしかった!」 「それは良かったです・・・・」 とほほ、バイキングにしておけばよかった!年上だし、少しは余裕のあるとこ見せたくて選んだお店だったんだけど、あんなに食べまくるとは思わなかった。 まったりお食事している間に、かなり時間が経っていた。千聖はまだ中学生だし、そろそろバイバイする時間かもしれない。 「じゃ、駅の方行こっか。・・・千聖?」 並んで歩いていたはずの千聖は、いつのまにか少しうつむいて立ち止まっていた。 「どうしたの?」 「・・・ううん、ごめんね。大丈夫だよ。」 私の視線に気がつくと、取り繕うように笑ってまた隣に戻ってきた。 「ねえ、本当に大丈夫?」 帰りの電車の中でも、千聖はやっぱり様子がおかしかった。どこか思いつめたような表情で、何事か考え込んでいるように見える。 「・・・えりかちゃん、次、降りてもいい?」 「うん、もちろん。」 めっちゃ食べてたし、気持ち悪くなっちゃったのかな?なんてその時はのんきに構えていた。 やがて電車が駅に到着して、私達はホームへ降り立った。千聖は目の前のベンチに腰掛けると、隣をポンポンと叩いて、私に座るよう促してきた。 「平気?」 「あ、あの、えりかちゃん。」 周りをキョロキョロ伺いながら、人が少なくなった頃合を見計らって、千聖はずいっと顔を近づけてきた。 「近っ!何急に」 「あのさ、私えりかちゃんとどんなことしてたの?その・・・あの、やらしいことって」 「え・・・だから、それはさっき説明したとおりで」 「だからねそれをもうちょっとくわしく知りたいの」 至近距離で見た千聖の瞳は、妙にキラキラ光って力があって・・・それは、ふわふわオーラのお嬢様の千聖には出せない、元の千聖にしかない特別な輝き。 「何かすごい、考えちゃって。どうしてそんなことするのかなぁとか、いっぱい想像してたら、何ていうんだろう、すごい、何か・・・だってえりかちゃんがホテルとか言うから千聖」 「それじゃあ、教えてあげようか」 「え・・・待っ、ちょ、えりかちゃんフカ゛フカ゛フカ゛」 私は千聖の腕を取って、勢いよく立ち上がった。 つまり、そういう意味ですよね岡井さん?そういう解釈でいいんですよね岡井さん? 「え、えりがぢゃん」 「大丈夫、ホテル連れ込んだりしないから。ちゃんと今日中に家に帰すから」 さっきの冗談がよっぽど応えたのか、千聖は「うえぇ」と変な声を出して怯えた顔になった。 「興味あるんでしょ?」 「あや、あ、え、だから、そ」 はい、フカ゛フカ゛禁止!梅田のターン!というわけで、エロカと化した私は、千聖を引きずるようにして知らない街の知らない改札を通って、知らない通りを歩き始めた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「メイド喫茶に行きたい。」 「・・・・・・・・・・はぁ?」 私の発言に、メンバー全員があっけにとられた顔をした。 歌番組収録後の雑談で、また今度キュートのメンバーみんなで遊びに行こう!なんて話が出た。 7人もいるとなかなか全員そろうのが難しいから、この手の話は大抵盛り上がるだけ盛り上がってそのうちすぼんでしまう。 奇跡的に集まれたジェラートを囲む会は楽しかったな。 ああいう機会をもっとたくさん作って、キュートの団結力を強くしたい。 そう思って、私は今自分が一番関心のあるスポットをあげてみたのだけれど。 「みぃたん、メイド喫茶なんて行ってどうするの?」 「そうだよー。普通のカフェでよくない?」 いやいや、そうじゃないんだって。 数日前、私はお兄ちゃんの買い物に付き合うことになって、秋葉原へ行った。 DSのソフトやら最新のヘアアイロンやらいろいろ買ってもらってご満悦の私の目に、ティッシュを配る女の子の姿が飛び込んできた。 メイド服着てる。芸能界の仕事以外で、こういう格好をしている人を見るのは初めてだった。 何かかわいいな。ふりふりスカートは人が履いててもツボにはまる。 ということは、この近くにメイド喫茶が? 「舞美?」 あ、あった。みるきぃにゃんにゃん。 お兄ちゃんを放置して、私は好奇心の赴くまま、小さなビルの階段を駆けのぼった。 素敵な空間だった。 ネコ耳をつけたメイド服の美少女たちが、にっこり笑いながらクルクル忙しそうに働いている。 完璧な笑顔に完璧な接待。 こんなふうにおもてなしされたら、さぞかし心地よいだろうな。 日ごろのストレスも解消できるってもんだ。 さすがに女の子一人で入るのは憚られ、外にいたお兄ちゃんをしつこく誘ったらマジギレされてしまったけれど、私のこの空間への憧れは高まっていた。 「・・・・というわけ。だからキュートみんなでね、」 「ハッ。ないわ。」 舞ちゃんが天使の笑顔で吐き捨てるようにさえぎった。 「ちょっ待って待って。絶対楽しいよ。可愛い女の子に囲まれてお茶が飲めるなんて素敵じゃない?」 「・・・みぃたんの発想って、完璧男の発想だね。あれでしょ、ホスト行くならキャバクラ行きたいって思ってるタイプでしょ。」 え、みんな違うの? 「舞美ちゃーん。さすがに栞菜もついていけないよ。可愛い女の子っていうのはいいんだけど、メイド喫茶て。」 えりはお釈迦様のような表情で、私に構うな省エネモードに入っている。 えーいい考えだと思ったんだけどー。 「じゃあみんなでいつどこ行くかは、また今度決めよう。お疲れ!」 なっきぃが仕切って、みんな次々に楽屋を出て行ってしまった。 ちぇー。 「・・・男子校カフェなら付き合ったんだけどね。ケッケッケ」 「えー何それ!栞菜にもくわしく教えて愛理!」 なんだなんだ、キュートはみんなそういうアレの方がいいのか! こうなったら地元の友達でも誘うしかない。ちょっと落ち込んで荷物をまとめていると、後ろからそっと肩に手を置かれた。 「ちっさー。お疲れ様。どうしたの?」 「あの、さっきのお話なんですけど。」 さっきの? 「その、召使いの方がご奉仕を・・・」 「ああ、メイド喫茶ね!ご奉仕ってちっさーw」 「あの、えと、」 ちっさーはちょっと背伸びをして、私にだけ聞こえる声で囁いた。 “千聖のこと、連れて行ってもらえますか?” TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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思えばえりかちゃんと千聖はちょっとおかしかった。 2人きり暗いところで無言で見つめあったり、えりかちゃんの変なジェスチャー(あれはたぶんおっぱいモニモニだ)に千聖が真っ赤になったり・・・・ああそうだ、仕事でホテルに泊まった時、千聖がフラフラになってえりかちゃんの部屋から夜中に戻ってきたというのもあった。 「えりかちゃん・・・!トロントロンて」 「わー!!無理無理無理!じゃあもうウチ行くから!千聖にヨロシク!じゃねー」 「ギュフー!」 えりかちゃんは私の口に残りの氷を押し込んで、2、3回コケそうになりながらレストランを出て行った。 「な、なっきぃ、何があったの?」 私の氷爆弾で赤くなったおでこをさすりながら、愛理が恐る恐るといった感じで聞いてきた。 「モゴモゴ・・・・ごめん、何でもないことだった。」 嘘です。何でもなくない。 私の頭には“不純異性交遊”“親の知らない中学生の危険な火遊び”“安易な行為の大きすぎる代償”等、保健体育の授業でならった恐ろしい単語がたくさん湧き出ていた。・・・いや、えりかちゃんは女なんだけど。 でも、でも、これは青少年の健全な発育の妨げとなって千聖の今後の人生観を歪めてしまって云々 「なっきぃ、顔怖いよう。」 ・・・まあこの件に関しては、また後ほど個人的にえりかちゃんを問い詰めることにしよう。 今は栞菜と千聖の件が最優先だ。 「あれ、みんな何やってんの?」 私が延々と考え事をしてる間、3人は何か作業を始めていた。 「あ、なっきぃもう気が済んだ?手伝って手伝って!」 テーブルには飴玉がごろごろ転がっていて、舞ちゃんと愛理がなにやら選別している。 「あのね、これ・・・」 「へー!何かいいかも!」 舞ちゃんから聞いたそのちっちゃなサプライズに賛同した私は、さっそく作業の輪に入ることにした。 「いらっしゃいませー」 それから10分ぐらい経った頃、静かだった店内に、店員さんの声が響いた。 「ちっさー来た!伏せて!舞はうさぎで店員さんにサイン!」 みぃたんは大きい手で私と愛理の後頭部をつかんで、顔面をテーブルに押し付けた。 痛い。 みぃたん自身も勢いあまっておでこを強打したみたいだった。ゴスッとすごい音がして、乙女とは思えないうめき声が隣から聞こえた。 「みぃたん、大丈夫?ていうか、何で舞ちゃんはウサギ?」 「誰かが入ってきた時、舞がウサギを被ってオッケーサイン出したら、その子は窓際の席に通して欲しいって店員さんに言ってあるの。」 なみだ目のみぃたんが小声で説明してくれた。 「舞美ちゃん、千聖席に座ったよ!」 ウサギ越しの舞ちゃんの報告で、私たちは恐る恐る顔を上げた。」 なるほど、植物とパーテーションのおかげで、うまいこと私たちの姿は千聖から隠れるようになっていた。 その代わりこちらからも千聖の様子は見えづらいんだけど。 4人分の視界があるから、どうにか補えそうな感じだった。 「どう、舞。ちっさーどんな顔してる?」 「やっぱり元気ない。」 「あ・・・何か文庫本取り出したよ。」 タイトルを確認しようと思って身を乗り出したら、愛理があっと短く声をあげた。 「あれ、栞菜が千聖に貸してた本だ。もし栞菜のこと嫌いになってたなら、借りた本なんて読んだりしないよね。あのピンも、栞菜が千聖にあげたやつだよ。服もそう。私見てたもん。良かった、本当に。」 愛理はその時、ようやく心から嬉しそうに笑ってくれた。 特別仲の良い3人のうち、2人があんなことになったんだから、愛理の心苦しさは私たちどころじゃなかっただろう。 「愛理、よかったね。」 「もー!なっきぃが泣くとこじゃないじゃないか!本当に泣き虫なっきぃだなあ。」 「ごめん・・・」 「ありがとうね、なっきぃ。」 みぃたんが目に押し付けてくれたおしぼりは熱くて、とても気持ちが良かった。 それからしばらくは何の変化もなく、千聖は本を読んだりケータイを見たりしながら、ついには軽くため息をついてぼんやりし始めてしまった。 「あんまり、本に集中できる心境じゃないんだろうね。」 「そろそろ、これの出番かな。」 舞ちゃんがさっき作った“アレ”を軽く振った。 「そだね。じゃあちょっと、それ貸して。」 「えっ、みぃたんちょっと」 みぃたんは舞ちゃんから包みを受け取ると、おもむろに立ち上がって、大きく振りかぶった。 スコーン! 「キャアッ!?」 それは千聖の頭にクリーンヒットして、千聖は怯えた顔であたりを見回している。 「あの、お客様・・・そういった行為はちょっと・・・」 「あぁ~すみません!ついその、驚かせたくて。もうしません!」 私たちの一連の行動を見ていた店員さんが、苦笑しながら注意をしてきた。 「何やってんのみぃたん!何も投げることないじゃない!うさまいちゃんに届けてもらうとかさあ!」 「だめだよ、私じゃすぐバレちゃうよ。千聖は私のことならすぐわかっちゃうからね。ふふふふ」 何だその誇らしげな物言いは。うさぎごしに、にやついてる舞ちゃんの顔が想像できる。 「はは・・・」 愛理はあまりにも野性的な一連の行為に頭がついていってないらしく、乾いた笑いを漏らすだけだった。 「まあまあ、そんな小さなことはどうでもいいじゃないか!ほら、ちっさーが開けるよ、あれ」 千聖は困惑した顔で小包を拾うと、恐る恐るといった手つきでリボンをほどいた。 「わかってくれるかな・・・」 しばらく中身を見つめて、千聖は息を呑んだ。 沈んでいた顔に、柔らかな微笑みが広がっていく。 ちっさーの好きな、薄いブルーの包みには、色とりどりの飴玉を詰めてあった。 黄色、ピンク、オレンジ、緑、青、紫、赤。 えりかちゃんにはバレないようにって言われてたけど、私たちが見守ってるよっていう意思を伝えたかった。 私たちはいつも一緒だって、千聖を勇気づけてあげたかった。 千聖は少しキョロキョロした後、頭一つ出っ張ってるうさぎの舞ちゃんに目を止めた。 何かを察したみたいで、手でうさみみを作って“ピョンピョン”と合図を送ってきた。 「よかったね、舞ちゃん。」 「っ・・・別に?普通。」 こっそり頭を取った舞ちゃんの顔が、嬉しさのあまりニヤついて崩壊寸前だったのは見逃してあげよう。 「ちっさー笑ってくれたね。」 「そうだね。」 これ以上はもう、余計な手出しはしない。 根拠はないけれど、全てがうまくいきそうな気がした。 「栞菜来た。走ってる。また伏せて!舞はうさぎ!」 「オッケー。」 みぃたんの指示に従って、私たちは2人を見届ける準備を始めたのだった。 戻る TOP コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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千聖とえりかちゃんの追跡をひとまず中断した私と舞ちゃんは、のんびり買い物デートを楽しんでいた。横浜は大人っぽい洋服屋さんやアクセサリーショップが多いから、中学生じゃ少し背伸びする感じになってしまう。 結局ウインドーショッピングが中心になってしまったけれど、通りの奥のほうにあったキャラクターショップで、お揃いのメモ帳を買うことにした。 「可愛いねー、これ」 「うん、レッスンの時に使おう・・・あ」 舞ちゃんはふと顔を上げると、私の顔の斜め後ろに視線をロックオンしたまま、固まってしまった。 「ん?」 視線をそのまま辿る。そこには、千聖の好きなクマちゃんのキャラクターの特設コーナーがあった。学校の鞄にも大ぶりのマスコットをつけていて、かなりのお気に入りだったと思う。 「舞ちゃん?」 「・・・・あれ、あげたらちー喜ぶかな・・・」 ひとりごとのようにつぶやきながら見ているのは、大きなぬいぐるみ(1まんごせんえんだと!!!)だった。」 「舞、千聖の笑った顔が好きなんだけど、いじめて泣かせたり、変なことして自分の気持ちを押し付けて困らせたり、そんなんばっか。あんま詳しく言えないけど、相当ひどいことした。償うってわけじゃないけど、誠意を見せたいなぁなんて」 「んー、でもさ。」 舞ちゃんの気持ちはわかるけど、ここは1個年上で千聖を見守っている者として意見させてもらうことにした。 「きっと、あんなに大きいぬいぐるみもらったら、千聖困っちゃうと思うけどな。」 「そっか・・・じゃあなんか小物とか」 「うーん。だけど、それは果たして本当に、千聖の望んでいることなのかなぁ~?確かに、ゲキハロの頃だっけ?千聖と舞ちゃん、ケンカして変な感じになっちゃってたけど・・・もうそれは終わったんでしょ? 別に千聖は、舞ちゃんに対して気まずいとか怒ってるってことはもうないと思うんだ。むしろ、千聖のために何かしたいっていうなら、そのことをいつまでもひきずってないで、フツーを心がけるとか?そういうことのほうがいいんじゃないかなぁなんて。ケッケッケ」 「フツー・・・」 舞ちゃんは少し考え込むように黙った後、「わかった」と笑顔で答えてくれた。 「えへへ。メモ帳、買おう。」 言葉数は少なくても、舞ちゃんは豊かな表情で、私の言葉を受け取ってくれたことを表してくれる。まったく、可愛いな。ケッケッケ 「次、どこ行く?」 「んーとね・・・・・・・・・・愛理。」 お揃いの紙袋を手に、私の顔を見てご機嫌スマイル・・・だった舞ちゃんは、いきなりシリアスな顔になった。声も、1オクターブ低くなってるような気がしなくもない。 「愛理。」 「は、はぁ」 「こっち。」 舞ちゃんは超真顔で、いきなり私の手を掴んだまま走り出した。 「ちょ、ちょまって、舞ちゃん!何、何事!」 お気に入りのちょっと甲の高いミュールが脱げそうになって、私はとっさに踏ん張った。つんのめった舞ちゃんが、敵を見るような目で私を睨みつける。 「どうしたんだよぅ」 「・・・センサー」 「え?」 「ち しゃ と セ ン サ ー が 反 応 し た の」 「ええっ!そ、それは正確なの?」 「千聖は舞のなんだから、絶対あってるから」 そんな非科学的な・・・と言いたいところだけど、舞ちゃんの千聖センサーとやらは、その名前だけでかなりの説得力がある。 「落ち着いてってばー」 「絶対あってるよ!とにかく、その道をっ」 アハハッ ウフフッ その時、押し問答を続ける私達の耳に、聞きなれた二種類の笑い声が飛び込んできた。 メインストリートから一歩横道に逸れた細い路地から、本日散々追い掛け回したカップルが、中むつまじく手を繋いで登場する。 「ま・・・舞・・・」 「ち・・・ちしゃとおおおおおおお」 「きゃああ!?」 私が静止するより早く、舞ちゃんは低姿勢ダッシュで2人の懐に突っ込んでいった。そのまま、カエルみたいにピョーンと見事なジャンプを披露して、千聖に覆いかぶさる。 「ジャンピングだっこ・・・」 小学生だった頃、千聖がえりかちゃんを見つけるとはしゃいで飛びついていたそれを、舞ちゃんは今、千聖にやろうとしているらしい。 だけど、自分より背が低い千聖にそんな無謀な技は通用しないわけで・・・ 案の定、舞ちゃんを受け止め切れなかった千聖は、舞ちゃんの勢いに押されるように、背中から地面に押し倒されてしまった。こ、こんな往来でなんて事を! 「ま、舞さ・・・痛っ・・・」 千聖は目を白黒させて戸惑っている。一方で、舞ちゃんはママとはぐれていた迷子みたいに、千聖の胸に顔を埋めたまま離れようとしない。えりかちゃんと千聖へのヤキモチが爆発して、甘えんぼう状態になってしまったらしい。 「え、えー・・・ちょっと、どうしよう・・・えー・・・」 どうしてこうなったのかわからない感じのえりかちゃんは、オロオロして私に助けを求めるような顔をした。・・・うーん、私、あんまり仕切りキャラじゃないんだけどな。どういうわけか、今日はそんな役割が多い気がする。 「舞ちゃん、千聖。とりあえず、ご飯でも行きませんか?」 「ごはん・・・」 舞ちゃんは至近距離で千聖を見つめている。ここからじゃちょっと表情は見えないけれど、「一緒に行っていい?」と伺いを立ててるみたいだ。 「ね?えりかちゃん、ご飯ご一緒してもいい?」 「う、うん・・ウチはいいけど」 「よ、よーし!じゃあみんなで中華街に出発だー!」 あぁ、こういうの、苦手なんだってば・・・。場違いな私の仕切り声(?)が、人気の少なくなってきたショッピング街に響いた。 数十分後。 「愛理、これ、美味しいわね。」 「ねー。」 「・・・・」 「・・・・・」 私の横には千聖。千聖の前には舞ちゃん。舞ちゃんの横にはえりかちゃん。 私達は今、中華街で美味しい料理に舌鼓を打っている。中華大好きな千聖はご機嫌で、私も出来たて点心を堪能して幸せ・・・なんだけど、向かいの席はまるでお通夜状態だ。 「愛理、このスープチャーハンを頼みたいわ。あと、エビチリを頼んでなかった。」 「あー、じゃあついでにこのフカヒレギョーザも頼んでくれる?」 「ええ。この大根もちというのは?どんな料理なのかしら?」 千聖は本当に屈託なく、オーダー式のバイキングを堪能している。舞ちゃんは、千聖がバンバン頼む料理をつつく程度。えりかちゃんにいたっては、手もつけていない。青ざめた顔で、千聖と舞ちゃんを交互に見比べている。 まるで、浮気現場に踏み込まれたオクサマのお相手みたいだ(でも、千聖は別にどっちとも付き合ってるわけじゃないんだっけ。) 「おいしい?千聖」 「ええ。とても。舞さんもえりかさんも、あまりお箸がすすんでいないようですけど・・」 「千聖が美味しいなら、それだけで舞もおなかいっぱいなの。」 「ひゅー。ケッケッケ」 恋愛初心者な私でも、今のはなかなか気の利いたセリフと思うのに、千聖は「あら、ウフフ」なんて言って軽く流してしまった。舞ちゃん、なかなか報われない! 「・・・ウチ、あんまりおなか減ってないんだよ。気にしないで。」 一方、えりかちゃんは少しソワソワしている。時計を見たり、ケータイを開いたり。もしかして、ホテルのチェックインの時間が迫っているのかもしれない。 多分、2人にとってのメインイベント(・・・)はホテルで過ごす時間だと思うから、その辺は抜かりなくやりたいに違いない。 「千聖。次、料理来たら、もうデザート行かない?」 「あら?私もう少し・・」 「まあまあ、腹八分目っていうじゃないかぁ(これからいっぱい汗かくんでしょ、とかいってw)ケッケッケ」 「・・・そうだよ、ちーまた大福になるよ」 どういう気まぐれか、舞ちゃんも説得に参戦してくれたから、千聖はその後デザートを5種類頼んでオーダーをストップしてくれた。 えりかちゃんが少しほっとした顔になったのは気のせいかな・・・?次は、舞ちゃんを刺激せずに2人と別れる方法を考えないと。 「・・・舞、観覧車乗りたい。4人で」 だけど、そんな私の思案を打ち砕くかのごとく、舞ちゃんは妙に通る声でそう言った。 「乗りたい。」 大事なことだから2回・・・というわけでもないだろうけど、舞ちゃんは千聖の目を見て繰り返す。 千聖はどっちでもよさそうな感じで、判断を任せるようにえりかちゃんに視線を送っている。 「あ、あのー、舞ちゃん。それなら、私と2人で・・・」 「・・・いいよ。」 えりかちゃんは私達3人に順繰りに視線を向けると、ニッと笑った。 「ここからだと結構歩くけど、食後の運動がてらってことで、いい?愛理も」 「・・・うん、いいよー」 そんなわけで、お店を出た私達は、みなとみらいの方へ向かって歩き出した。 「そっち、右ねー。信号は渡らなくていいから。」 えりかちゃんは先行くちさまいコンビに、手でメガホンを作って道を指示する。 キャッキャとはしゃいでいる2人を見る表情は、さっきとは違って落ち着いていた。 「ごめんね、邪魔して」 何となく罪悪感を感じて、私はえりかちゃんを上目遣いで伺った。 「ホテル、間に合うの?」 「愛理・・」 えりかちゃんは驚いたように目を丸くした後、いたずらっぽくニヤッと細めた。 「実は、さっきそれが気になって、食事に集中できなかったの。ウチ心配性だからさー、一個気になるともうだめで。 かなりいいホテル取ったから、キャンセルはありえないし。でも、ホテルは観覧車のすぐ近くだし、余裕で間に合いそう。こんなことなら、バイキング楽しめばよかった!」 「体力もつの?大丈夫?」 「まあ、愛理お嬢様ったら、なんてはしたないことを!」 大げさにのけぞった後、えりかちゃんは耳に顔を近づけてきた。 「じつは、すごくムラムラしてる。やばいかも」 「ええっ!」 「というわけで、観覧車の後の舞ちゃんのことはよろしくね。」 ションナ!ムセキニンナ!私は抗議の意味も含めて、ちょっと唇を尖らせた。 「・・・えりかちゃん、舞ちゃんがお泊り中止してって言ったらどうする?」 「しないよ。譲る気ないから。」 「ムラムラしてるから?」 「違うよ。いろいろ考えたけど、やっぱり、今後も千聖を譲る気がないって意味。」 「・・・・そっか。」 ハッキリとそういい切るえりかちゃんはちょっとかっこよくて、これはちょっと敵わないな、何て密かに思ってしまった。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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そんなわけで私は今、ちっさーが家に来るのを待ち構えている。 ついに念願のメイド・・・と思ったのだけれど、あの時「連れてってください」と言ったちっさーの顔がやけに畏まっていたのが気になる。 ちっさーは、妙に気を使うところがあるからな。本当は行きたくないなら、うちで楽しく遊んで帰るんでもいいと思う。 もっと腹を割って話そうじゃないか、ちっさー! 「舞美~、千聖ちゃんが来た。なんか雰囲気変わった?日傘差してたけど。」 「えっ!いやいや、そんなことないよいつもの元気なちっさーだよ!ししゅ、しすゅん期は気持ちが変わりやすいからそのせいじゃない?」 あっ今のはわざとらしい。どうも私は嘘がつけない。 「?そう・・・下でお待たせしてるから、早く行きなさい。」 呼びに来てくれたお母さんの横を通り抜けて、階段を駆け下りていく。 「舞美さ・・・舞美ちゃん!遅くなってごめんねぇ!これお土産!」 「おーちっさー!」 何となく察してくれたのか、元気なちっさーを装って、ぶんぶん手を振ってきた。 私の家は駅からちょっと歩くから、ちょっとバテた顔をしている。おでこに浮かんだ汗の粒を手で払ってあげると、ちっさーはでへへと恥ずかしそうに笑った。 「暑いねぇ。お母さん、冷たいお茶入れてー!」 ちっさーお気に入りの水色の日傘(フリフリがかわいいから私もひそかに真似してピンクを買った。でもいつも差し忘れる)を玄関の隅に置かせて、2人で私の部屋に直行する。 「どうぞ、千聖ちゃんのおもたせでもうしわけないけど。ゆっくりしていってね。」 「はーい!ありがとうございます!・・・・舞美さん、今日はお招きありがとうございます。」 お母さんの姿が見えなくなると、すぐにちっさーはお嬢様の顔に戻って、ゆっくり頭を下げてきた。 「あーいいよそんなぁ。私とちっさーの仲じゃないか。・・・それより、大丈夫?本当に今日行きたい?」 ちっさーが持って来てくれたクレープを突っつきながら、私はちっさーの目を覗き込んだ。 「ええ、もちろん。楽しみにしてました。」 ふわふわ笑う顔には嘘は見当たらない。 「でも何か、緊張してるじゃないか。無理しなくたって別にいいんだよ。」 「・・・舞美さん、私。」 ふいにちっさーは笑顔を封じ込めて、潤んだ上目づかいに変えた。 「私、ケガをしてから、何だかいろいろなものを失くしてしまった気がして。」 「うん。」 「それを少しずつ補っていきたいので、なるべく新鮮な体験をたくさんしたいと思っているのです。 直接的な効果がなくても、私がその体験から何か得ることができれば、今後の私を構築していくための云々」 うわー漢字がいっぱいだ。私のボキャブラリーではとてもついていけない。 後半はもはや右耳から左耳にトンネルしてしまったけれど、ようするに 「ちっさーはいろいろ体験することで、もっと人間として深くなっていきたいということだね!」 「は、え、えと、そうです。」 いいことじゃないか!舞ちゃんとの逃避行も、愛理とのデート(まあこれは普通の買い物か)も、自分を豊かにするために、ちっさーが自らに与えた試練なのか。 「何かかっこいいね、ちっさー。私もできる限りなんでも協力するよ!・・・で、まずは、服装なんだけどね。」 今日のちっさーは薄いピンク×黄緑色のツートーンカラーのワンピースに、愛理とおそろいの赤いネックレス。避暑地のお嬢様って感じだ。 「可愛いんだけど、その格好はメイド喫茶のお客様っぽくないなあ。」 「そうですか・・・私、以前の洋服があまり好きではなくて。新しい服を買い揃えたいのですが、いろんなバリエーションの服を買うには少しお金が。」 「ふっふっふ。ちっさー。これを見るがいい!!」 私はベッドの正面にある大きなクローゼットをガーッとスライドさせた。 「まあ・・・・!」 千聖が両手で口を押さえて、目を丸くしている。 「最近こっち系にもハマっててさあ。」 メイドカフェの一件から、私はゴスや甘ロリに少しずつ手を伸ばしていた。 例によって私に甘いお兄ちゃんたちがホイホイと買い与えてくれて、私のクローゼットはフリフリモサモサゴスゴス混沌としていた。 外に着ていくほどの勇気はないから家族相手のファッションショーでしか着る機会がなかったけれど、ついにデビューの時がきたのかもしれない。 「やっぱり、こういう格好がふさわしいと思うんだよね。あの空間には。」 「え、あ、え、でも、私、きっと似合わな」 あは、うろたえてる。 「ちっさー!バンザイ!」 「は、はい!きゃあああ!?」 とっさに両手を上げたすきに、ワンピースのすそを持ち上げて一気に脱がしにかかる。 「あの、大丈夫ですから!自分で脱ぎます!舞美さぁ~ん・・・」 む、胸のとこでつっかえてる。生意気な! 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -